没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
護衛の騎士は御者の隣に座っているので、車内はジェラールとふたりきりだ。

彼に遠慮して進行方向側のシートを空けたというのになぜ隣に座るのかと目を瞬かせれば、いたずらめかしてウインクされた。

「隣の方が近いだろ。こうして肩に腕を回すこともできる」

ジェラールに抱き寄せられ、オデットは「キャッ」と声をあげた。

「ジェイさん」

カルダタンでの呼び名を口にして慌てて言い直す。

「王太子殿下、あの、この腕は……」

「今はふたりきりだからジェイでいい。いや、ジェラールと呼んで」

「ええっ!?」

オデットが目を丸くしたら彼がプッと吹きだしたので、どうやら冗談らしい。

揺れの少ない車内で肩を抱かれたまま数分進む間、オデットの鼓動は高鳴り続けている。

布越しでも彼の逞しい筋肉の質感が伝わり、香水の甘い香りが鼻をくすぐる。

(このままだと心臓がもたないわ。離してくださいと言ってもいいかしら?)

車窓を見る余裕もなくおろおろしていたら、ジェラールがクスリとする。

「可愛い反応だな。君が素直に驚いたり照れたりするから、色々と試してみたくなる」

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