没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
楽しげなジェラールが、オデットの帽子を取り上げた。

「あ、あの……」

顎先に指がかかり、顔を彼の方へ向けられた。

美麗な顔が至近距離にあり艶めく瞳がゆっくりとさらに距離を詰めてくるから、いくら鈍感なオデットでもキスの予感に慌てる。

(ファーストキスなのよ。殿下は冗談のつもりでしょうけど、私は困るわ)

けれども唇が触れ合う前に外から御者の声がかかる。

「到着しました」

「残念。キスはまた今度」

クックと笑いながら言われたので、間もなく到着だとわかって迫っていたのではないだろうか。

返された帽子を深くかぶり直したオデットは、広い鍔で真っ赤に染まった顔を隠した。

(心臓が家出するかと思った……)

ここは中央地区にあるグスマン伯爵邸。

門を潜った玄関前で馬車は停車しており、御者によって扉が開けられると立派な二階建ての館が構えていた。

白壁のブロックが陽光を反射させて美しい。

両開きのドア前では伯爵夫妻が待っていて、馬車から降りたジェラールに揃って頭を下げる。

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