没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
今より銀が貴重だった昔からの習わしで、銀食器の管理責任はたいてい執事にある。

伯爵に白状させずとも、この執事に聞けばスプーンについての情報を得られるとジェラールは考えたようだ。

執事は一層眉間の皺を深めた。

「理由をお尋ねしてよろしいでしょうか?」

「ああ。このスプーンについて調べているからだ。見覚えはない?」

ルビーのついた銀のスプーンを見せると、執事は首を傾げる。

不愛想な人だがスプーンについては興味を持ったようで、いくらか言葉が増える。

「見覚えはありません。ですが私はこちらに勤めて十年目です。十六年以上前のことはわかりません。今、古い管理簿を探しますので少々お待ちください」

「グスマン伯爵に内緒で頼むよ」

「かしこまりました」

執事は主家に従順であるべきだが、彼は主人の許しを得ずに内緒で管理簿を見せるという頼みをあっさり承諾して退室した。

「彼が王族を嫌いなだけか。グスマン伯爵は中立派。そこは変わりないようでよかった」

閉じたドアを見つめるジェラールが、顎に手を添え独り言を呟いた。

「え?」

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