没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
それは十六年前の日付のもので、書かれている文字や数字を指でなぞりながら一ページずつ確かめている。

二十ページほど進んだところで、ジェラールの指が止まった。

「これだ」

オデットが身を乗り出すと、見やすいようテーブルに置いてくれた。

銀食器の種類ごとに表が作られ、週に一度すべてを数えて記入している。

いつなにを使用したかや磨き残しや傷など細かな状態も書き込まれていた。

その中に赤字のものがある。

それはルビーのデザートスプーンの項目で、『一本紛失』と書かれてあった。

枠外に小さな字で恨み節のような事情も記されている。

『メイドのシュルビアが突然辞めたのは二日前。おそらく彼女が持ち去ったのだろう。しかし旦那様が「スプーン一本で騒ぐな」と仰り、捜索を許してくださらない。私に管理責任を問わないことだけは確認させていただいた』

非常に達筆な記載の中でそこだけ文字が乱れており、当時の執事の怒りや悔しさが窺えた。

「シュルビアさんという方が、アランさんの母親かしら……」

オデットと視線を合わせたジェラールも同じ推測をしたようで頷いてくれた。

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