没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「責めているわけじゃないのよ。昔のことだもの。ブラウン子爵の館はどう? もし困っているならまたうちで雇ってあげてもいいわよ。あら、でもこんな言い方したらブラウン子爵に失礼ね。忘れてちょうだい。オホホ。それにしても主人ったら、遅いわね……」

伯爵夫人がドアをチラチラと見遣る。

王太子を退屈させてはいけないという重責をひとりで担うのが苦しそうだ。

「お待たせして申し訳ございません」

伯爵夫人がジェラールの顔色を窺うように謝ったが、不機嫌にさせないかという心配は無用なようだ。

「約束の時間より早く着いたのでお気遣いなく」

ジェラールは夫人との会話を広げようとせず、隣のオデットの方に体ごと向けている。

「このフィナンシェ、アーモンドの風味が濃くて美味しいよ」

ひと口サイズのサンドイッチに焼き菓子、カットフルーツが、それぞれの皿に上品に盛りつけられている。

遠慮せずいただきなさいと勧められて、オデットはフィナンシェを口に運んだ。

「はい。あっ、すっごく美味しいです!」

甘いものを食べると幸せな気持ちになれる。

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