没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
緊張感を一瞬で忘れてとろけそうな顔をすれば、ジェラールの目が弧を描いた。

「オデットは食べている時も可愛いな。君のスコーンを貸して。イチゴジャムを塗ってあげよう」

「あの、自分でできますので」

ジェラールはオデットといちゃいちゃできるのが嬉しいのか、かなり上機嫌だ。

もしかすると早めに行こうと促したのは、この時間が欲しかったからなのかもしれない。

約束の十分前になって玄関の方で物音がした。

「やっと主人が帰宅したようです」

夫人がホッと表情を緩めると、グスマン伯爵が慌てた様子で外出用のステッキを手にしたまま応接室に入ってきた。

「お着きになっていらっしゃったとは。お待たせして大変申し訳ございません」

その目がシュルビアを捉えたら大きく見開かれ、ステッキが絨毯に落ちた。

シュルビアは立ち上がって一礼したが、挨拶はせず目も合わせずに静かにソファに腰を戻した。

「なぜ――」

言葉を切った伯爵にジェラールが真顔を向けた。

オデットと戯れていた時の柔らかい雰囲気は消え、今の彼は支配者らしい威厳を醸して緊張感を生み出していた。

思わずオデットは背筋を伸ばす。

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