没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「シュルビアは私が熱を出した時に徹夜で看病してくれたのよ。優しくて真面目で、少し気の弱いところもあったあなたが、どうして盗んだの?」

唇を噛むだけのシュルビアに代わり、ジェラールが答える。

「赤子に銀のスプーンを握らせる習わしは、もちろんご存知ですよね?」

「ええ、知っております。私の子供たちにも握らせましたので……えっ、シュルビア、あなたまさか?」

「そうです。彼女は当時十六歳で身ごもっていました。実家は貧しく仕送りをしていたと聞きましたので、帰るわけにいかず随分と悩んだことでしょう。追い詰められて正しい判断ができなくなりスプーンを盗んだ。ただし盗むという意識は低かったように思います。ただ生まれてくる子に幸せになってほしいという母性からスプーンに手を出したのでしょう」

(私も実家に仕送りしているから他人ごとに思えないわ。私ならどうするかしら? 家族に負担をかけたくないから同じように帰れないかも)

同情を寄せるオデットの視線の先ではシュルビアが、当時の気持ちを蘇らせたかのように硬く目を閉じ、一層強くスカート生地を握りしめていた。

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