没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
夫人が膝を寄せるよう身を乗り出して優しく声をかける。

「どうして相談してくれなかったの? 私はね、うちで奉公してくれる若い子たちを家族のように思っているのよ」

「それは……」

目を開けたシュルビアは、恐る恐るというように夫人の隣に視線を向けた。

その視線を辿るように、夫人もオデットもグスマン伯爵を見る。

皆の注目を浴びた伯爵は青ざめて脂汗をにじませているが、笑みを作ると膝を叩いた。

「過去を懐かしむのも結構ですが、未来の相談をする方が建設的ではないですかな。シュルビア、生活に困ってここに来たんだろう? 百万ゼニーを援助しよう」

(やましいことがあるのね?)

宝石鑑定以外は鈍感なオデットでも気づくくらい、伯爵の言動は不自然だ。

ジェラールがおもむろに歩き出し、グスマン伯爵の横で足を止める。

非難の目で見下ろされても、伯爵はごまかそうと足掻く。

「せっかくお越しいただきましたが、昼に食べた生ハムがあたったのか腹具合が思わしくないのです。今日のところはこれで……」

「私が来ると体調不良に見舞われるのですか」

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