没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
退職金としては多めの百万ゼニーをもらったが、他の使用人や伯爵夫人に挨拶もさせてくれず、その日のうちに追い出されたという。

「そんなのひどいわ……」

両手で口元を覆うようにしてオデットは呟いた。

バツが悪そうな伯爵は顔を背けるように壁の方を見ている。

シュルビアは絨毯に座ったまま涙を拭い、続きを話す。

「王都で新しい職場を探しましたが、妊婦を雇ってくれる店もお屋敷もありませんでした」

安アパートに住まいを見つけ、なんとか無事に出産したけれど、赤子が三か月になる頃に退職金の百万ゼニーが底をついてしまった。

乳飲み子を抱えて路頭に迷ったシュルビアは、街角で同じように赤子をおぶった女性ふたり組を見かけた。

彼女たちの夫はモンテス商会に勤めているらしく、その立ち話が聞こえてきた。

『お館様のお孫さん、女の子ばかりでしょ。私が男の子を産んだから羨ましがられてね。養子にくれないかって言われたのよ。冗談だろうけどびっくりしちゃった』

(それで、経営者のお宅の前に赤ちゃんを置いたのね)

シュルビアは子供に愛情はあっても育てられる自信がなかった。

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