エリート警察官は彼女を逃がさない

「征爾さん!」
つい声を上げた私が次に見たのは、征爾さんが畳に沈んだ姿だった。
「参りました」
荒く息をしながら膝をつく彼に、父がそっと近寄る。

「左肩をかばっているか?」
少し強張った表情で、父が征爾さんの胴衣をめくるとそこには包帯が巻かれていて息を飲む。

「どうして言わなかった!」
怒りにも満ちた父の声に、征爾さんは大きく息を吐いた後正座をした。
「怪我をしていることなど何の言い訳にもなりません。しかし、美緒のことは何とかお話を」
土下座をしつつ頼み続ける征爾さんに、たまらなくなり私は駆け寄る。
「お父さん、もうやめて。征爾さんもそこまでしなくてもいいから」
「いや、美緒が話を聞いてくれるまで……」
そばで見れば征爾さんの額からは汗が流れ落ちている。戦った汗ではないのではないか。そんなことが頭を過る。

「征爾さん、痛いんじゃ……」
そこまで言ったところで征爾さんは、そのまま倒れてしまった。

「おい!」
父たちも慌てたように呼ぶと、彼の周りに集まった。
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