呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
天気の良い日差しのかかる玄関で、お出かけする旦那様を見送りでていた。



「旦那様、お気をつけて」

「ああ、なるべく早く帰って来るからな」

「はい」



たった数時間のお出かけなのに、旦那様は名残惜しそうに、行ってきますのキスをする。

旦那様の男らしい長い指が、髪に絡むだけでドキリとした。



お出かけする旦那様を見送り、私は急いで厨房に向かった。

アーサー様は、ほとんど眠れなかったようで、朝からぐったりと顔色悪いが、今はロウさんといる。



薬の耐性をつけるのに、少しずつ何かしらの薬を慣れさせる訓練を施しているらしい。

慣れないうちは、解毒薬も準備しており、二つをひたすら交互に飲ませていると、ロウさんがはなしていた。



そして、薬が盛られているかどうかの判断をつけるために、匂いや味を覚えさせていると……。



薬の訓練だけで、アーサー様は不味いと嫌気がさしている。その上、夜は眠れない。

そんなアーサー様に、ロウさんは怒鳴ったり……とは、しないがカリキュラムをこなすように、淡々と、アーサー様の1日の予定をこなしている。



私は、その間に旦那様にクイニーアマンを焼く予定だ。

ヘルハウスに軟禁中の私は、旦那様がいないと外出が出来ない。

外で、幽体離脱するわけには、いかないからだ。

ヘルハウスでも、四六時中旦那様が一緒で、しかも無理をするな、と言われていたから、今日までクイニーアマンを焼けなかった。

それが、やっと旦那様が出かけるために、焼くチャンスがきたのだ。



厨房に行くと、ジェフさんはすでにクイニーアマンの材料を並べてくれていた。

急いでエプロンをして、「お願いします」と、ジェフさんに頭を下げた。



「パイ生地はもう出来上がっていますから、包むところから一緒にしましょうか?」

「はい!」



パイ生地はバターをたっぷり練り込んで、生地を作る。大変な作業と思われたのか、ジェフさんは生地だけは気を利かせて作ってくれていた。

なめらかなパイ生地にジェフさんの繊細さがでていると思う。

そして、ジェフさんの指導のもと、生地を何層も重ねるように筒状になるように横長に丸く重ねていった。

それを五等分に切り、砂糖をつけていった。



「ジェフさん、どうですか?」

「お上手です。あとは、オーブンに入れましょうか」

「はい」



クイニーアマンが焼けるまで、後片付けをして、ジェフさんと厨房でお茶をいただこうと、温かい紅茶を淹れた。



「奥方様にお茶を淹れていただけるなんて……すみません」

「そんな……気を使わないでください」

「リーファ様は公爵夫人ですから……」

「ジェフさんも家族と思っていますよ。これからも美味しいお料理をよろしくお願いしますね」



ジェフさんはもう家族がいないらしく、私の言葉に感動していた。



「それにしても、旦那様はどちらに行かれたのでしょう?」

「聞いていませんか?」

「はい……。私には秘密なのでしょうか?」



旦那様に女性の影はないけど、心配だった。

街に行った時も、旦那様を見ている女性たちが多々いたから。

旦那様は背が高く、整った容姿には目を引くものがあるのだ。



お茶も終わり、この厨房でも旦那様と食事したのが、遥か昔に思えるなぁ、と思いながら、夕食の下ごしらえも手伝いながらクイニーアマンが焼けるのを待った。

そして、いよいよ焼き終わる時間になり、オーブンをあけると甘い匂いがたちこめる。



「ちょっと端に置いたクイニーアマンは焦げていますね」

「これくらいなら、カリッとして美味しいですよ」



熱々のクイニーアマンを冷まし、お菓子用の籠に盛り付けると、やっと旦那様にクイニーアマンを食べてもらえると嬉しくなる。



「ガイウス様は大喜びですね」

「そうだといいです。ジェフさんのおかげです」



そして、旦那様が帰って来られ、喜んでもらえるだろうかと、ドキドキしながら出した。



「リーファが作ったのか……?」

「はい。クイニーアマンを旦那様に差し上げたくて……」

「いただこう」



旦那様は「美味しい」と食べてくれる。

アーサー様は寝不足と、ロウさんの指導で疲れて眠っている。

ロウさんは庭で何かをしている。



二人だけの時間は穏やかだった。





そして、アーサー様とジュリア様のための新しいベッドは、私たちの部屋とは遠い二階の角部屋へと準備された。



今夜もアーサー様の叫び声が響くが、旦那様は「知らん」と言って相手にもしなかった。





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