◇水嶺のフィラメント◇
 風の如く自由に巡る彗星ではあるが、元来『燃える星』という意味から名付けられたに違いない。

 「炎の国」と呼ばれるフランベルジェにちなんだ名だ。

 「水の国」リムナト、「砂の国」ナフィル、「森の国」ルーポワ──以上の四国に生まれた民は、自国を称える名を持つ者が多い。

 事実レインも遠い西の国で使われる「雨」を意味した「レイン」、ヒュードル候の名も異国の言葉で「水」を意味する「ヒュドール」から授けられたという。

 フォルテのように国名とは関係を持たない名前もそれなりに存在するが、おそらくパニも何処かの国の言語では「風」を意味する名であるのだろう。

「そうね……もしかしたら、そうなのかも知れないわ」

「え?」

 アンシェルヌという名が「砂」を意味するのか? 意外にも曖昧な王女の応えに、メティアはつと振り向いた。

「あたしの名前は、母が付けてくれたものなの。でもこの名が持つ意味を誰にも明かすことなく、母は天に召されてしまったから」

「そ、っか……」

 残念ながら王女の元気を取り戻せる話題ではなかったようだ。

 メティアは再び前を歩きながら「失敗だったかー」と心の中で苦笑した。


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