◇水嶺のフィラメント◇
 それからまもなくして彼女らの行く手を(はば)んだのは、幹の扉ではなく煉瓦で出来た明らかに人工の壁面であった。

「なんだ……王宮への入口はまだまだ先だろ? またアンが触れたら壁が回るのか?」

 触れても押しても何の反応も見せない壁から半回転して、メティアがアンの表情を(うかが)う。も、アンの唇からは驚きの答えが返ってきた。

「ええ、これもあたしが触れれば回転する筈よ。その奥はもう王宮だから、此処からは慎重に行きましょう。長い地下道を五分も登れば王宮の中心に辿り着くわ」

「え? い、いやっココから五分!? ……あれだけ船で下ったのに、そんなに近い訳ないだろ!?」

 レインとアンだけが扉を(ひら)けることだけでも驚きだと言うのに、信じられないことばかりが続いて、とうとうメティアの頭も混濁した。

 湖畔に辿り着くまでの船旅は、少なくとも三十分は掛かった筈なのだ。

 川を流れる速度は明らかに今歩いてきたスピードよりも(まさ)っていた。

 王宮は水車小屋よりも川上にあると言われたのに、あの巨木から十分も経たない内に、王宮の入口までこうも早く到着出来る理由は全く理解不能であった。


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