◇水嶺のフィラメント◇
「──此処にいる間、一切時間は進まない。でも……レインとあたしだけは動くことが出来るの。だからあたしが此処へ踏み入ったことで時が止まったのを合図に、彼はいつもあたしに会いに来てくれた。だけどレインに万が一何かが……起きていたとしたら。あたしが此処にいるのに彼がこのまま来ないとしたら……」

「アン……」

 レインとアンしか動けない時の(まにま)

 アンが此処にいると分かれば、レインは直ちに合流しようと試みるだろう。

 なのにレインが現れないとなれば……彼の身に不穏な事態が起きたとみるしかない。

 現にこの空間に入って既に十五分は過ぎた筈だ。

 しかし愕然としたメティアの向こうに立ちはだかる壁は、一向に動く気配を見せなかった。

 そしてよしんばそのような状況にあるのであれば──アンが外へ出た途端、その状況は進行する──それはきっと、好転よりも悪化を示唆しているものと思われた。

 目の前でうな垂れる王女の様子に、メティアは掛けてやれる言葉も見つからないまま時を止めた。

 アンはきっと、時間さえ止めればレインを助けられるものと、その一心でこの洞窟に足を踏み入れたに違いない。


< 107 / 217 >

この作品をシェア

pagetop