◇水嶺のフィラメント◇
「レイン! レイン!!」

 その余韻も束の間マントで身を包んだアンが、意識を保てず横倒しになるレインの隣で呼び掛けていた。

「レインさま!!」

 パニの後ろで見守っていた兵士と家臣の面々も、メティアたちと共にレインを囲んで平伏する。

「ごめん、アン……君に残酷な、ことを、させた……」

「そんなこと……! あたしこそ、すぐに思い出せなくてごめんなさい」

 兵士や家臣たちのマントを幾重にも束ね、その上にレインを仰向けに寝かせる。

 レインは薄っすらと瞼を開き、淡い笑みを浮かべて謝罪した。

「パニ……後でちゃんと、説明、するけど………イシュケル、彼は……君のご祖父、だ……」

「えっ!」

 パニはレインの視線の先を見上げた。

 白髪混じりの髪を後ろに撫でつけた、厳しげな面立ちの細身の剣士。

 お互いの目がお互いの姿を捉えたが、イシュケルは瞳を逸らすことはなきにせよ、どういう表情をして良いものかと戸惑っている様子であった。

「レインさま……誠に、誠に申し訳ございませんでした! わたくしが風の民との関係を口外してしまったばかりに……!!」

 家臣からの謝罪に顔を向け、レインは(ゆる)すように首を振る。

 震えながら伸ばした手を彼の肩に置き、ただ家族の無事を確認して、微笑みと共にホッと息を吐いた。

「アン……ごめん、此処では、もう……。あの泉へ、連れていって……くれる? 泉の水には、傷を癒す、力も、あるから……」

「レイン? レイン!!」 

 そこまでを何とか伝えたレインは、眠るように気を失った。


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