◇水嶺のフィラメント◇
「イシュケル、これまで通り、これからも姫君を頼みます」

「レイン、さま……」

 哀しげな瞳に込められた意図。

 それを察したイシュケルは、一度深く拝跪(はいき)をして決意の面持ちで腰を上げる。

「──イシュケル!?」

 アンはイシュケルの手によって、レインの元から抱え上げられた。

 降ろしてくれと抵抗を始めたアンを一瞥(いちべつ)したのち、レインは自分の家臣たちを呼び寄せた。

「彼女に僕の、死に顔など見せないでくれるね……?」

「レイン! レインっ!! 待って……きっと、助かる方法が……!」

 アンの必死な叫びに、既に人垣に囲われたレインはどのような(おもて)を見せただろうか?

「いやっ、お願い! レイン──っ!!!」

 葬送の(ひつぎ)の如く、すすり泣く男たちに担ぎ上げられたレインの身体は、ほどなくして泉の底へと消えた──。



 ──ありがとう、アン……ずっとずっと、愛してる……──



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