◇水嶺のフィラメント◇
 涙は次の涙の道標(みちしるべ)となってあたかも川のように連なりながら、レインの沈んだ泉の真中へ一直線に向かっていった。

 光る涙の先端が、とうとうレインの元へと辿り着いて──

「アン……何だ、この音は!?」

 静かな洞窟に地響きのような地鳴りのような、轟音と震動が湧き上がってくる!

「見て、メティア。中心の鉄格子が!」

 天井まで突き刺さる長く細い鉄柱が打ち震え、真ん中の十本程が一本ずつ交互に、こちら側とあちら側へゆっくり倒れていくのを一同は見た。

「どういうことなの……?」

 横倒しになった格子の上部が、両側の岸辺に音も立てず着地する。

 泉の中央では下部同士が吸いつくように結合し、見事に人一人が通れる幅の橋と化した。

「レインが……起こした奇跡、なの……?」

 アンの涙の川は、レインの眠る橋の下をクルクルと回って、今では光の渦を描いている。

 それもやがてパチパチと跳ねるように消え去ったが、岸辺に立ち尽くした男たちも、泉に身を浸したままのメティアとアンも、稀有(けう)な現象の起きたその場所から目を離せぬまま立ち尽くしていた。

 そんな唖然として固まる(とき)を動かしたのは、背後から聞こえた見知らぬ男の声であった。

「一足、遅かったのか……?」

 全員が振り向いた王宮へ続く地下道の手前、遠くで揺らぐ黒い影に、アンとイシュケルの時間だけが何十年もの月日を(さかのぼ)っていった──。


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