◇水嶺のフィラメント◇
「さて……何処から話したら良いものか……」

 レインの家臣やイシュケルから事件の全容を聞かされたスウルムは、顔色をやや蒼白にして口火を切った。

 おそらくはレインが(おとしい)れられてしまった結末に、深い呵責(かしゃく)を感じているようだった。

「遥か遠き(いにしえ)のことだが……このリムナトとナフィルは元々一つの国であったのだ。今のリムナトと同様温暖な気候と豊かな水に潤され、人々は幸せに暮らしていた」

「リムナトと……ナフィルが?」

 代表して問い直したアンの驚きに、スウルムはただ無言で頷いた。

「その頃まだ人は神に近い存在だった。王はこの地で神と対話をし、神に教えを乞い、従い、時に神より力を与えられ、神官として神事を行なった」

 泉を湛えるこの地下洞窟は、神と王が同じ時を過ごす場所であった──本来なら信じがたい話であるが、これまでアンが体験した数々の奇蹟を思い返せば、それも納得出来ない事象ではなかった。


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