◇水嶺のフィラメント◇
「……だけど一つ、その「メーさん」ってのはやめてくれない? 何だか間が抜けててヤダわ。あたいの本名はメティアよ。メティアって呼んで。「さん」も要らない」

「メティア……素敵なお名前ね」

「でしょ? あたいも気に入ってんだ」

 アンが察するに、語源は他国の言語で「流星」を意味するメテオ、またはミーティアだ。

 決められた軌道を巡るだけの惑星とは違い、風の民として自由気ままに放浪するメティアには相応(ふさわ)しい名と思われた。

「では、メティア。あたしもアンと呼んでください。同じく「さん」は要りません」

「オーケー! でもその敬語もやめてよね」

「はい。……あ、いえ……では「オー……ケー」」

 はにかみながら「オーケー」と告げたアンに、メティアは楽しそうに目配せをした。

 それから寝台に並んで談笑を始めた二人を、ポカンとしたまま傍観するこちらの「二人」は──

「あ、あのぉ、フォルテさん? 一体何がアンさまとメーを突然仲良くさせたのですか……?」

「さ、さぁ~?」

 先程までメティアの腰掛けていた椅子に座り、パニはフォルテと共にテーブルに頬杖を突いた。同時に顔を見合わせて、訳も分からず目を丸くする。


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