◇水嶺のフィラメント◇
「何してんのさ、パニ! 早くアンの衣装に着替えな。アンもコレ、あんたがフランベルジェを抜けるための変装だよ。フォルテ、アンに着せてやんな!」

「は、はいぃ~」

 放心した二人へ活を入れる言葉を放って、メティアはニッカリ笑ってみせた。

 慌てて集まってきた二人にそれぞれの衣服を手渡したが、パニは少々戸惑った様子を見せた。

「メー、でも夜までまだまだ時間があるよ?」

 確かに時刻は正午前だ。出発の夜半までには半日余りもある。しかしメティアの(おもて)にはやにわに険しさが(かげ)り、アンもその表情の意図するところを想定した。

「レインは王宮に戻ったんだろ? そんな敵だらけの中へ幾ら内密にったって、見つからない保証なんてありゃしない。レインが帰国したと勘付かれれば、これ以上あんたらを野放しにしておくワケもないだろうし……ココを見つけられた場合の備えをしておかない手はないって。そうでなくともリムナトに入国するのさえ、なかなか厄介だったんだ。場合によっては早目にココから離れる必要も出る」

「え?」

 パニは意外そうな反応を示した。レインとパニが(ひそ)やかに越境した頃には、まだ「厄介」ではなかったのだろう。


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