◇水嶺のフィラメント◇
「あたいだってレインの外見だけに惚れ込んだワケじゃないんだ。だから分かってるって! レインがアンを選んだのは、見た目だけなんかじゃないってことはさー」

「……え」

 いつの間に心の言葉を口にしてしまったのだろう?

 アンはその返事によって(こも)った殻から引き戻された。すっくと立ち上がったメティアに一瞬ビクッと震えてしまう。

 そんな様子を特には(いと)わず、メティアはおもむろに目の前に進み、手渡したばかりの衣装を取り返した。

 真っ赤な指先が広げたのは、繊細なレースが胸元に施された長尺のブラウス。上品な白さが清潔感や涼やかさを印象づける。

 メティアはそれをアンの背に(まと)わせながら微笑んだ。

「レインはアンの中身に惚れたんだって。だからさ、もっと自分に自信を持ちなさいよ? あれだけの男に選ばれたんだから」

 語らずとも応えてくれる親しい友人など、レインとフォルテの他にいた記憶はアンにはない。

 恋人でもなく侍女でもない、本当の意味での友という存在。

 アンはこの出逢いを作ってくれたレインに深く感謝をした。

 いや、もしかするとレインはアンのため、他の誰でもないメティアを寄越してくれたのかも知れない。

「ありがとう、メティア」

 一生大切に出来る宝物を、レインから戴いたのかも知れない。

 そして──いつの日か見つけるための糸口を手にした気がした。彼が自分を愛する理由を。



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