◇水嶺のフィラメント◇
「ああ、悪かったね……この話には続きがあって、あたいは売られはしたけど、身体は売らずに済んだんだ。あの日あたいは売人に連れられて、遠い都くんだりまで歩かされていた。まもなくってところで悪態ついてね──最後の悪あがきってやつだよ。お陰で大通りは大騒ぎになっちまった……その時ちょうどリムナトの旅団が通りかかって、その中の色男があたいを助けてくれたんだ。それが……レインだった」

 メティアとレインの出逢い。

 俯いたまま横目をアンに向けたその仕草は、僅かに乙女の恥じらいを垣間見せた。その時の二人を想像して想いを馳せる。

 メティアにとってレインは救世主以外の何者でもなかったに違いない。それこそ……彼女には光り輝く王子さまに見えたことだろう。

「あのままあたいが逃げてしまったら、あたいの家族は身売り代をもらえずにのたれ死んだろうさ。だけどレインはあたいを売春宿から解放するために、法外な身請け金まで支払ってくれた。結果的にあたいはレインに買われたワケだし、てっきりあたいに一目惚れでもしたんだと思ってさ、礼も兼ねて寝所(しんじょ)を訪れたが、レインはあたいに指一本触れることはなかった。自分には心に決めた女性がいるからって。まぁそれがアンだったというワケだ。まさかこうしてレイン抜きでお目に掛かるとは思いもしなかったけどねー」


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