◇水嶺のフィラメント◇
「わーるかったな~老けてて! それでなくとも女はすぐにナメられるからな。こういう濃い化粧は有効なんだよ」

「そういう意味じゃ……でも、そんなに若いのに立派ね」

 偽りのないアンの言葉は、メティアの鼻先を微かに赤く染めた。

 そんな照れ臭さを隠すように鼻を(こす)りつつ話を再開する。

「この赤毛でもうお分かりと思うけど、あたいはフランベルジェの片田舎で生まれたんだ。家は貧しいのに親どもは後先考えずポンポン子供を作りやがった。あたいはその年長でね……下の弟妹(きょうだい)たちを食わせる為に、結局売春宿へ売られちまった」

「……」

 これだけやさぐれてしまったのには、よっぽど過酷な過去があるのだろうとは推測していたが、いざ言葉にされるとその振盪(しんとう)は計り知れなかった。

 頭を鈍器で殴られたような、胸元をナイフで(えぐ)り取られたような、今までに感じたことのない痛みが全身を駆け抜ける。


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