◇水嶺のフィラメント◇
 ギュッと握り締めていた王女の書き置きを広げ、今一度目を通す。

 けれど其処から感じられるものは、アンの必死な想いしかなかった。

 ──必死……そう姫さまには、王宮に向かわざるを得ない深刻な事情が出来てしまった。だからわたくしも……今は混乱なんてしている場合じゃないわ。

「……あの、やっぱり、計画を続けましょう」

 男たちの喧騒(けんそう)を一瞬にして消し去ったのは、フォルテの冷静な一言だった。

「いやっ、しかし……姫さまを置いてきぼりにすることなどっ!」

 水車小屋を訪ねた兵士の一人が叫んだが、

「ええ、ですからそちらは例外的に、お二人には姫さまの元へ向かっていただきます。ですがわたくしたちは北境からナフィルへ……それが姫さまの願いですから」

 フォルテは自分の両手の指を絡め、祈るように立ち上がった。

 王女の置き手紙には全員でナフィルへ戻るようにとあったが、そちらに関しては不躾(ぶしつけ)ながら却下だ。

 当初のレインの計画を遂行(すいこう)することとする。


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