◇水嶺のフィラメント◇
 フォルテが王女の安否を案じない訳はない。

 何も分からぬ状態のまま離ればなれでいたことなど、何者かによって幼い姫が連れ去られた「あの時」以外有り得なかったのだから。

 出来ることなら一刻も早く王宮へ駆けつけたいくらいだった。

 けれど自分や侍従が後を追ったところで、どう役に立てるというのか? 何が出来るというのか?

 ただの足手まといになるだけだ。

 それよりもいち早く母国に戻り、状況を(ただ)ちに国王に伝え、援軍を送ってもらう方がずっと良い。

 いえ……それに、そもそもそうよ──万が一にも姫さまがパン屋から消えたことをまだ悟られていないとすれば。北路で越境を試みる自分たちに、上手いこと敵の注意を引きつけられるやも。パニを姫さまだと思わせるレインさまの作戦は、まだまだ功を奏する可能性が高いのかも知れない──

 そういう考え方も出来るのだと思い直すと、フォルテの心に更なる勇気が(みなぎ)った。

「姫さまはとあるルートを利用して、リムナトの王宮へ向かったと思われます。ですがその(みち)はわたくし共では見つけることは出来ません。お二人は街道を上って忍び込んでください。但し飽くまでも姫さまの邪魔にはなりませぬよう。姫さまの行動は、きっとお考えがあってのことでございますから」


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