◇水嶺のフィラメント◇
「わ、分かった……」

 其処に居る全員がたじろいたまま(うなず)いてしまうほど、フォルテの面差しと口調には強い意志が見えた。

 それはきっとフォルテと王女の間にある深い信頼から生まれた絆だ。

 フォルテはアンが幼少に迷い込んだあの洞窟を知っていた。

 中心は鉄格子に(はば)まれて、ナフィルからリムナト側へ行くことは出来ないが、湖畔に隠された入り口が二手に分かれ、王宮に繋がっていることをアンから聞かされた記憶がある。

 ──姫さまはおそらくあの入口へ向かうために船を使われた。そして其処から王宮へ……あぁ、どうか、どうか。姫さまとレインさまを必ずやお守りください、天にまします我らの神よ──

 見上げる男たちの真中で、フォルテは組んだままの両手を天に掲げた。天井にぶら下げられた仄かな照明が、まるで小さな太陽のようにその拳へ光を注ぐ。

 「この輝きが姫さまに届きますように」と、願い閉ざした瞼の裏側には、アンの眩しい微笑みを浮かべながら──。



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