元勇者は彼女を寵愛する
「あー……ヴァイス……?」

 ゆっくりと後ろへ振り返る。ヴァイスはいつもと変わらない笑顔を浮かべているけど……やっぱりちょっと怒ってるっぽい。

「大丈夫かい?こういう場所は危険だから来ちゃダメだって言ってたよね?」
「うう、ごめんなさい。ちょっと気になる子がいて……。でも見失っちゃったわ」
「へぇ……」

 ヴァイスの瞳が少しだけ細くなる。その意味を理解する間もなく、ヴァイスの伸ばした手が私の目の前を通り壁に置かれた。
 私はヴァイスと壁の間に挟まれ追い詰められる様な形になった。
 いつもの優しい彼とは違う、少し怖くも感じるその姿にドキッと胸が高鳴った。

「君が僕に目もくれず追いかけて行くほど、魅力的な男でもいたのかい?」

 ……え?またなんでそんな勘違いするのよ!?

「そ、そんなんじゃないわ!!子供よ!子供が盗みを働く所を見ちゃったの!だから追いかけたのよ!!」

 慌てながら弁明すると、ヴァイスは鋭かった視線を少しだけ緩めた。

「そう……。それでも一人でこういう場所に来ちゃ駄目だよ。君に何かあったらと思うと、心配でたまらないんだ」

 その瞳がなんだか悲しんでいる様で、いたたまれない気持ちになる。

「心配かけてごめんなさい。ヴァイスの存在がバレるのはいけないと思って……。次からは気をつけるわ。ヴァイスの言う通り、ここは少し怖い所だったし。それに……」

 私は片隅で擦り切れた布にくるまり、座り込んでいる人物に視線を向けた。

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