元勇者は彼女を寵愛する
「もし……もしもね、新しい魔王が誕生したら、ヴァイスはまた、戦いに行くの?」

 そう聞く彼女の瞳は少し潤んでいる。まるで行かないでと訴えかけるように。
 ここでまた、君はどうしてほしいの?なんて聞いたら無理やり笑って嘘を言うんだろうね。
 あんなに本音を隠せないくせに、そこだけは隠し通すんだ。
 まあ、君の考えてる事は丸わかりなんだけどね。

「どうかな?もう聖剣も無いし、僕が戦う必要も無いんじゃないかな?リーチェに危害が及ばない限りは、僕が君の傍から離れる事はないよ」

 そう告げた瞬間、リーチェはパァァっと輝く様な笑顔を浮かべた。
 ほんと、反応が正直すぎて可愛くて困る。

 新しい魔王。その心配は無いだろう。
 魔王は魔族によって生み出されていた可能性が高い。闇の力を秘めた人間を探し出し、その力の使い方を教え、人間を憎み魔王になるようゆっくりと洗脳していく。僕に絡んでいた魔族のように。
 だけど、ついさっき魔界の魔族を一匹残らず掃除してきたし、聖剣も放置している。

 多分この先、新しい魔王なんてもう現れないんじゃないかな。
 そして聖剣が無くなった今、新しい勇者も現れない。
 繰り返されてきた勇者と魔王の戦いも、これで終わりを迎えたという訳だ。

 だとしても、この世界が平和になるとは限らない。
 この世界の住人達は、また勝手に新たな火種を自ら作っていくのだろう。

 ここにいる僕達には関係ない事だけどね。

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