元勇者は彼女を寵愛する
「はぁ、何で皆そんなに髪の色を気にするのかしら?生まれた瞬間に優劣が決まるとか、ほんとくだらないわ」


 古くからの言い伝えで、髪の色が薄い人は魔力が高く、逆に濃いくなる程魔力が劣る、なんて言われている。
 私の腰まで伸びた長い髪も濃い藍色。
 小さい頃、王都に住むおじさんの家に遊びに行った時、すれ違う人達から蔑む様な視線を浴びたのを覚えている。
 特に黒髪の人に関しては、災いをもたらす存在、なんて言われて特に酷い扱いを受けていた。

 今どき、魔法を自在に扱える人間なんてほとんどいないっていうのに。
 あ、ヴァイスを除いてだけど。

「みんながリーチェみたいに思ってくれればいいんだけどね。そう簡単に人は変わってはくれないよ」

 ヴァイスは椅子から立ち上がり、私に手を差し伸べた。

「さあ、行こうか」

 私はその手をとり、ヴァイスの体にピッタリとくっついた。
 この島から出る手段はヴァイスが使う転移魔法しかない。だからこうして体をしっかりと密着させないといけない。
 ヴァイスも私の腰に手をまわすと、ギュッと力を入れた。彼の少し早くなった心臓の音が伝わってくる。それになんだろう…お花の様な、品の良い香水のようなこの香りは…くんくん。

「はぁ、いい匂い。役得♡」
「ふふっ」

 ヴァイスの笑い声で、また思っていた事が漏れてしまっていた事に気付く。
 私は恥ずかしさで赤くなっているであろう自分の顔を隠す様に、彼の胸元に顔を埋めて転移魔法の発動を待った。
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