神殺しのクロノスタシスⅣ
ここは異次元世界。

魔封じの石の欠片を持った者が、侵入者を排除する為に作った世界。

だからこうして、俺にとって最も辛い光景を、ずっと見せられている。

シルナの顔をしているのに、中身は全く別物のシルナ。

俺のことなど、歯牙にもかけないシルナ。

罪なき子供達を、平気で商品として売りに出すシルナ。

あの冷たい目。冷たい声。

それを見ているだけで、俺は胸が締め付けられるような思いになる。

そして、何より辛いのは。

この世界で、シルナが俺に無関心であることだ。

好きの反対は嫌いではなく、無関心である。

よく言ったものだ。本当にその通りだ。

せめて、嫌ってくれる方が良かった。

この世界において、シルナにとって俺は、自分の手元で働く有象無象の奴隷の一人でしかない。

たかが一奴隷でしかない俺を、シルナが気にかけることはない。

名前を呼ぶこともない。

こんなに辛いことが、他にあるのか?

そして今、俺の中に生まれた疑念。

現実世界においても。俺が元いた世界でも、俺はシルナにとって、替えの利く代替品でしかないのだろうか、と。

だってシルナにとって大事なのは、俺じゃない。

シルナが己の道を踏み外すほどに愛したのは、羽久・グラスフィアではない。

前の俺…この身体の本当の持ち主。

二十音・グラスフィアだ。

じゃあ、俺は何だ?

この身体の、派生人格に過ぎない俺は。

シルナにとって、替えの利く代替品でしかないんじゃないか?

シルナは二十音だけがいてくれれば良くて、他の人格のことなど、気にもかけていないんじゃないか?

俺という…羽久・グラスフィアという人格が生きていることに、意味なんてないと。

シルナは、そう思っているんじゃないか?

俺に生きている価値はあるのか。

生まれてきた意味はあるのか。

普段は考えないようなことが、頭の中をぐるぐると回っている。

こんな風に、弱気を起こさせるのも…この世界を作った魔封じの石の持ち主の策なんだろう。

こうやって、俺の心を折ろうとしているんだろう。

…そうだな、効果覿面だよ。

この身体の偽物である俺には。

自分の存在価値。その現実を突きつけられれば、俺は揺らぐ。

よく分かっているようだな。

…でもな、そうだけど。

確かに、こんなことを考えるのはとても辛いけれど。

…それでも、俺は。

「…会長は、今何処にいる?」

俺は、同僚に尋ねた。

「?確か、拐ってきた新しい奴隷を、仕分けてるところじゃない?さっき定期便が届いてたし…」

「つまり、あの檻の部屋だな?」

「だと、思うけど…。それがどうかしたの?」

どうかしてるんだよ。

俺も、シルナもな。

「分かった」

俺は、真っ直ぐに檻のある部屋に向かった。
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