神殺しのクロノスタシスⅣ
…羽久だ。

羽久が、舞台の上に立っていた。

スーツを着て、マイクを片手に持って。

…何で、ここに羽久が?

って言うか、何やってるの?

「は、はつ…」

思わず、舞台に向かって声をかけそうになったが。

羽久の目には、私が見えていなかった。

マイクを持った羽久は、私に気づきもしない様子で、私以外誰一人いない観客席に向かってお辞儀した。

…そうだ。

ここは、魔封じの石が作った異次元世界。

そして私と羽久は、それぞれ別々の異次元世界に入った。

だから、羽久がここにいるはずがない。

この羽久は、異次元世界が作った偽物だ。

本物の羽久じゃない。惑わされてはいけない。

言うなれば、羽久もどきだ。

「皆様、長らくお待たせ致しました。これより、公演が始まります」

マイクを持った羽久もどきが、観客席に向かって言った。

皆様って、一人しかいないよ羽久。

「本日の演目は、皆様ご存知の通り…」

ご存知って、私は知らないよ羽久。

「『シルナ・エインリーの遍歴』となっております」

…え、何だって?

今、私呼ばれたよね?

「シルナ・エインリーのこれまでの人生歴を辿り、彼の人物像を知る。これが、本日の演目の趣旨となります」

「…!」

まさか…そんな。

私の人生劇場だって言うのか?この舞台は?

「シルナ・エインリーと言えば、ルーデュニア聖王国では知らない者はいない、かの有名なイーニシュフェルト魔導学院の学院長です」

「ちょっ…まっ…」

「そして、彼自身も優れた魔導師として、聖魔騎士団魔導部隊の名誉顧問も勤めています。そんな彼は、どのような遍歴を辿り、現在の立場に至ったのでしょうか?」

私の静止も聞かず、羽久もどきは朗らかな声で喋り続けた。

何なんだ、これは。

なんて酷い演目だ。

「さて、前置きが長くなりましたね。では、早速…シルナ・エインリーの人生遍歴を、ゆっくりお楽しみください」
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