神殺しのクロノスタシスⅣ
映像とはいえ、久々に見る故郷の景色は、私の心を揺さぶるのに充分だった。
いや、故郷の景色そのものに動揺しているのではない。
羽久だ。
他でもない羽久が語っているから、こんなにも不快なのだ。
誰に何と言われても構わない。
でも羽久は。羽久だけは。
私の心の痛い部分を、抉って欲しくなかった。
「…そしてその後、神々の聖戦が起こり、世界は危機に陥ります」
いよいよ私の人生劇場も、故郷編のクライマックス、といったところだ。
「ここで里の長老達が下した結論が…皆様もご存知ですよね。そう、あの神殺しの魔法です」
…出た。
「里にいる、全ての魔導師の命を力に変えて、神を封じる魔法…それが神殺しの魔法。術者として選ばれたのは…そう、他でもない、シルナ・エインリーその人です」
知ってるよ。
それなのに羽久もどきは、容赦なく映像まで用意して見せつけてくる。
自分達の命を使って、必ず、いつか必ず、神を滅ぼしてくれと。
それがお前の使命だ、ただ一人生き残るお前の生きる意味だと…。
族長に、そう託されているときの映像を。
そして私は、己に課された使命を、確かに背負っていた。
必ず神を滅ぼす。皆の命は決して無駄にしない…。信じて、安心して眠ってくれと…。
「シルナ・エインリーは、故郷の人々に約束します。必ず神を滅ぼしてみせると。力強い彼の言葉に、里の魔導師達は、安心して彼に命を捧げ…散っていったのです」
そんなアナウンスは要らないよ。
見れば分かるから。
「ご覧ください…。あの栄えていたイーニシュフェルトの里は、こうして終わりを告げ…荒廃した大地が残っただけです。そして、使命を託されたシルナ・エインリーは、一人神を滅ぼす為の旅に出ます」
また、映像が変わる。
「神を殺す方法を探りながら、放浪の旅を続けていたシルナ・エインリーは、長きに渡る旅路の果て、とうとう神を殺す方法を見付け出すのです。それが…この子供です」
そう言って、出てきたのは。
暗い、座敷牢の中に閉じ込められた…。
「…二十音…」
私は、思わずそう溢していた。
おかしいよね。目の前で喋ってる羽久と、同じ容姿なのに。
座敷牢に入っている、あの二十音の姿は…今の羽久とは、全く別物に見える。
「この子供は、神の依代として適任でした。そこでシルナ・エインリーは、この子供を依代として神を降ろし、子供ごと神を殺そうとしたのです。謂わば、子供を生贄に捧げることにしたのです」
…君自身が、生贄になるところだったんだよ。
しかし羽久もどきは、わざとらしい演技をしながら、大袈裟に語る。
「子供を生贄にするなんて、残酷…?いえ、そんなことはありません。もし邪神が復活してしまえば、かつての聖戦よりも悲惨なことになるでしょう。人々は死に、大地は荒れ果てることでしょう。邪神はこの世にいてはならない、滅ぼすべき存在なのです。だからこそ、里の賢者達も、命を賭して邪神を亡ぼそうとしたのです」
…。
「一人の子供の命と引き換えに、世界を守る…これは悪ではない。正義です。それによって過去死んだ人々は報われ、これから誰も死ぬ人々はいなくなるのです。たった一人の犠牲で、それだけの人間が救われるのです。ならば、それが正しい道でしょう。誰にでも分かることです」
…そう。
誰にでも分かる、簡単なこと。
だけど、それでも私は…。
「…しかし、シルナ・エインリーは、そんな誰でも分かる正しい道を選びませんでした」
舞台の照明が、ガクン、と暗くなった。
羽久の声のトーンが下がり、まるで責めているような口調に変わった。
「彼は何をしたか?そう、依代にした子供を殺さず、そのまま生かすことにしたのです。あまつさえ、イーニシュフェルトの里の秘宝である『聖宝具』を使って邪神を抑え、その子供を守ることにしたのです」
…うん。
そうだね。
いや、故郷の景色そのものに動揺しているのではない。
羽久だ。
他でもない羽久が語っているから、こんなにも不快なのだ。
誰に何と言われても構わない。
でも羽久は。羽久だけは。
私の心の痛い部分を、抉って欲しくなかった。
「…そしてその後、神々の聖戦が起こり、世界は危機に陥ります」
いよいよ私の人生劇場も、故郷編のクライマックス、といったところだ。
「ここで里の長老達が下した結論が…皆様もご存知ですよね。そう、あの神殺しの魔法です」
…出た。
「里にいる、全ての魔導師の命を力に変えて、神を封じる魔法…それが神殺しの魔法。術者として選ばれたのは…そう、他でもない、シルナ・エインリーその人です」
知ってるよ。
それなのに羽久もどきは、容赦なく映像まで用意して見せつけてくる。
自分達の命を使って、必ず、いつか必ず、神を滅ぼしてくれと。
それがお前の使命だ、ただ一人生き残るお前の生きる意味だと…。
族長に、そう託されているときの映像を。
そして私は、己に課された使命を、確かに背負っていた。
必ず神を滅ぼす。皆の命は決して無駄にしない…。信じて、安心して眠ってくれと…。
「シルナ・エインリーは、故郷の人々に約束します。必ず神を滅ぼしてみせると。力強い彼の言葉に、里の魔導師達は、安心して彼に命を捧げ…散っていったのです」
そんなアナウンスは要らないよ。
見れば分かるから。
「ご覧ください…。あの栄えていたイーニシュフェルトの里は、こうして終わりを告げ…荒廃した大地が残っただけです。そして、使命を託されたシルナ・エインリーは、一人神を滅ぼす為の旅に出ます」
また、映像が変わる。
「神を殺す方法を探りながら、放浪の旅を続けていたシルナ・エインリーは、長きに渡る旅路の果て、とうとう神を殺す方法を見付け出すのです。それが…この子供です」
そう言って、出てきたのは。
暗い、座敷牢の中に閉じ込められた…。
「…二十音…」
私は、思わずそう溢していた。
おかしいよね。目の前で喋ってる羽久と、同じ容姿なのに。
座敷牢に入っている、あの二十音の姿は…今の羽久とは、全く別物に見える。
「この子供は、神の依代として適任でした。そこでシルナ・エインリーは、この子供を依代として神を降ろし、子供ごと神を殺そうとしたのです。謂わば、子供を生贄に捧げることにしたのです」
…君自身が、生贄になるところだったんだよ。
しかし羽久もどきは、わざとらしい演技をしながら、大袈裟に語る。
「子供を生贄にするなんて、残酷…?いえ、そんなことはありません。もし邪神が復活してしまえば、かつての聖戦よりも悲惨なことになるでしょう。人々は死に、大地は荒れ果てることでしょう。邪神はこの世にいてはならない、滅ぼすべき存在なのです。だからこそ、里の賢者達も、命を賭して邪神を亡ぼそうとしたのです」
…。
「一人の子供の命と引き換えに、世界を守る…これは悪ではない。正義です。それによって過去死んだ人々は報われ、これから誰も死ぬ人々はいなくなるのです。たった一人の犠牲で、それだけの人間が救われるのです。ならば、それが正しい道でしょう。誰にでも分かることです」
…そう。
誰にでも分かる、簡単なこと。
だけど、それでも私は…。
「…しかし、シルナ・エインリーは、そんな誰でも分かる正しい道を選びませんでした」
舞台の照明が、ガクン、と暗くなった。
羽久の声のトーンが下がり、まるで責めているような口調に変わった。
「彼は何をしたか?そう、依代にした子供を殺さず、そのまま生かすことにしたのです。あまつさえ、イーニシュフェルトの里の秘宝である『聖宝具』を使って邪神を抑え、その子供を守ることにしたのです」
…うん。
そうだね。