神殺しのクロノスタシスⅣ
…え。ヴァルシーナちゃん?

あれ…ほ…本物じゃない、よね?

「彼女は、イーニシュフェルトの里の族長の孫娘で、シルナ・エインリーと同じくイーニシュフェルトの里の魔導師です」

羽久もどきが紹介したヴァルシーナちゃんは、何処からどう見てもヴァルシーナちゃんだったけど。

でも…ここは異次元世界。

ヴァルシーナちゃんがいるはずがない。

「イーニシュフェルトの里の代表として、どんなお気持ちですか?」

アナウンサーよろしく、羽久もどきがヴァルシーナちゃんにマイクを向けた。

これが本物のヴァルシーナちゃんなら、羽久もどきも本物の可能性があるけど。

本物の羽久が、こんな人生劇場を開くはずがない。

って言うか、羽久もどきにしても、このヴァルシーナちゃんにしても…もし本物だったら、同じ舞台に立っているはずがないので。

やっぱり本物じゃない。二人共。

羽久はともかく、本物のヴァルシーナちゃんだったら、絶対羽久の隣になんて立たないだろう。

そして。

「里の者からすれば、裏切られたも同然だ」

ヴァルシーナちゃんもどきは、羽久もどきのインタビューに答えた。

あ、やっぱり本物じゃないんだ…。

普通に喋ってるし…。

「里の皆は、シルナ・エインリーが世界を正しい道に導くと信じ、彼に期待して全てを託し、命を散らしていったのに…その犠牲が、全て無駄になってしまった。奴の身勝手な選択のせいで」

「そうですよね。里の人々にとっては、とても許せないですよね」

「当たり前だ。私を含め、死んでいったイーニシュフェルトの里の人々は皆、決してシルナ・エインリーを許さない」

そんなに何度も言わなくても、ちゃんと分かってるよ。

私だって、同じこと思ってるもん。

「だからこそ、ヴァルシーナさんは立ち上がったんですよね。里の人々の無念を晴らす為、裏切り者のシルナ・エインリーの代わりに」

「あぁ、そうだ。私が里の皆の無念を晴らす。シルナ・エインリーが果たすべきだった使命を、奴が放棄した使命を…私が果たす。それが私の役目だ」

「素晴らしい志です。故郷の人々の思いを踏みつけにして、平気で裏切ったシルナ・エインリーとは大違いですね」

そう言われて、私はショックだった。

別に、裏切り者呼ばわりされるのが嫌な訳じゃない。

それは、もう言われ慣れたから。今更何とも思わない。

でも、他でもない羽久の口から言われるのは、嫌だった。

あれは羽久じゃない。羽久もどきだから…。羽久が本気でそう思って言ってるんじゃない。

何度もそう自分に言い聞かせていないと、本気で落ち込む。

今舞台の上で話してるあの二人は、二人共偽物だ。本物じゃない。

異次元世界が勝手に作り出した、私に対する試練。

私の心の痛いところをつついて、出血させようとしているだけだ。

敵の手に、みすみす落ちるようなことがあってはならない…。

…と、そう思っていても。

やはり、知っている人と同じ顔をした人が喋っていたら、完全に無反応ではいられない。
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