神殺しのクロノスタシスⅣ
魔導師を抑える為に、魔封じの石たる、賢者の石を使った。

それ自体は理に適っている。悪い選択ではなかった。

手を出して欲しくなかったのは、事実だけどね。

「でも強いて言うなら…君達は、相手が悪かった」

決して、敵に回してはいけない人物を、敵に回したのだ。

「あ、相手だと…?」

「そうだよ。寄りにも寄って君達は…聖魔騎士団魔導部隊の大隊長に狙いをつけた。どうせ狙うなら大捕物を、と思ったんだろうけど…それが間違いだった」

でも、私達にとっては救いだった。

これが魔導部隊大隊長以下の、平魔導師だったなら。

それこそ本当に、永遠に異次元世界から帰れないところだった。

「どういう意味だ…!」

勿論、説明してあげるよ。

今まで、ずっと隠してきたけど…もう、隠している意味はなくなったからね。

「よく考えてごらん。魔封じの石なんか作って、一番困るのは誰だと思う?」

「…」

虚を突かれたように、ぽかんとする『サンクチュアリ』の青年。

残念。タイムオーバーだ。

「魔導師だよ。魔法が使えなくなるんだから、当然困るのは魔導師だ。魔導師が作ったのに、使われて困るのは魔導師。おかしな話だよね」

「なら…どうして…!」

「さっき言ったでしょう?賢者の石が作られた目的は、里の外にいる魔導師を無力化する為。そしてイーニシュフェルトの里の賢者達は、自分達こそ優れた魔導師だと信じていた」

つまり。

「当時、里の外にいたような…並みの魔導師なら、賢者の石で完全に魔法を無効化出来る」

聖魔騎士団魔導部隊に所属する、多くの魔導師がそうだ。

大隊長未満の魔導師達だったら、賢者の石を前に、手も足も出なかっただろう。

しかし。

「大隊長以上の魔導師なら…かつてイーニシュフェルトの里にいた魔導師のように、一部の優れた魔導師なら…賢者の石を抑え込むほどの、強大な魔力を持つ魔導師なら…魔法無効化をかき消すことが出来るんだよ」

「…!」

その顔だと…ようやく、理解してもらえたかな。

「賢者の石の力は強力だけど、でも絶対じゃない。一定の魔力までは無効化出来ても、許容量を越えると、無効化が効かなくなるんだ」

「な…!何故そんなことを…」

「保険だよ」

それ以外に、何の意味がある。

イーニシュフェルトの里の魔導師達は、自分達が作った賢者の石が、他人に使われたときのことを考えていた。

賢者の石を、完全な魔封じの石にしてしまったら。

万一賢者の石が、非魔導師の手に渡ってしまったとき…自分達が追い詰められることになる。

自分の作ったものに首を絞められるなんて、そんな馬鹿なことはない。

だから、もし賢者の石が非魔導師の手に渡ったときのことを考え。

敢えて、賢者の石を完全な魔封じの石にはしなかった。

一定量の魔力の無効化しか出来ない、不完全な状態に留めておいたのだ。

「この石は、不完全であることが完全な状態なんだ。不完全であるから、価値があるんだ」

そうでなきゃ、わざわざ魔導師が魔封じの石なんか作る訳がないだろう?

他人の力は封じ込めるが、自分達だけは大丈夫なように、保険をかけておく。

これが、狡猾なイーニシュフェルトの里の賢者達のやり方だったんだ。
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