神殺しのクロノスタシスⅣ
その日の夜。

俺は、並んでゴザに横になった『玉響』と、話をすることにした。

君ゾンビなんだけど、今どんな気持ち?みたいな。

まー、さすがにそんな聞き方はしないけどさ。

一体どういう「設定」で、今ここにこうして生きているのか、ちょっと確かめてみようと思ってるだけ。

「ねー、『玉響』起きてる?」

「…はい…?」

起きてるようだね。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと…?」

「うん。…『アメノミコト』から抜け出したときのこと」

「…」

無言になる『玉響』。

ちょっと直接的過ぎたか?怪しまれてるか。

でも、言ってしまったからには、今更引っ込めることは出来ない。

「思い出すの嫌?」
 
「あ、いや…。そういう訳じゃないですけど…。…いきなり、ですね」

「今思い出したから」

嘘だけどね。

「勿論、僕も覚えてますよ。…思い切ったことをしたなって、我ながらまだびっくりしてます」

『玉響』は、苦笑交じりにそう言った。

俺もそう思ってるよ。

「でも…学院長先生に言われて、僕も…やり直すことが出来るんじゃないか、って思って」

「…」

「血に濡れた両手だけど…。それでも、新しい人生を歩めるんじゃないかって…。『八千代』さんと、『八千歳』さんと一緒なら」

…そう。

この『玉響』に、悪意がないのは分かってるけど。

俺に対する嫌味にしか聞こえないね。

「…僕に殺された人の分も、そして…キエルの分も…僕は生きようって思ったんです」

「…キエル?」

って、誰?

「話したことありませんでしたよね…。僕が…『アメノミコト』の学校にいた頃の、同級生なんです」

そーなんだ。

俺も聞いたことないね。

同じ組織の仲間でも、お互いの情報を話し合うことは禁じられてたから。

「彼女は、あの『アメノミコト』にいながら…正しい人でした。…優しい人でした」

…でした、って過去形なのは。

「死んだの?その子」

「はい。正しさ故に…優しさ故に…人を殺すことが出来なくて」

成程。それは『アメノミコト』にとっては、不要品だね。

「でも僕は…そのお陰で…彼女が死んだから、僕は生きてこられたんです。キエルが…僕を生かしてくれた」

「…」

「だから僕は、死ねないんです。キエルの分も…僕が生きます。彼女の苦しみも葛藤も、僕が全部背負って…」

「…」

「世界には明るい景色もあるんだってことを、僕は学院長先生達に教えてもらいました。そしていつか僕が死んだとき、暗い世界しか知らない彼女に、教えてあげるんです。僕が見た世界を。光に満ちた世界のことを」

「…そう…」

希望に満ちた顔で語る『玉響』。

…そんな夢を見てたんだね、君は。

「このイーニシュフェルト魔導学院や…『八千代』さんや『八千歳』さんと一緒なら…僕は生まれ変われる。新しい自分になって、新しい人生を歩める…そう思ったんです」

そーだね。

で。



…それを壊したのは、俺なんだよね?
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