神殺しのクロノスタシスⅣ
「…何を…言ってるんだ…」

「…」

考えてもみなかった、って顔だ。

…分かるよ。

自分の不幸に手一杯だと、他人の不幸なんて考えてる余裕はないよな。

俺もそうだった。

「い、いずれにしても…!お前はこの異次元世界から出られないんだ。はは…ざまぁみろ!」

…。

悲しい嘲笑だ。

「ご自慢の魔法を封じてるんだからな!お前は魔法を使えない。ここからは出られない!一生、魔法の使えない世界を彷徨ってろ!」

そうか。

自分も、一生消えない傷を負ったから。

その傷を、他人にも背負わせることでしか…自分を慰められない。

可哀想だと…素直に、そう思う。

彼がこれまで負ってきた、傷の深さを考えたら…そのような狂気に陥るのも、無理はないと思う。

同情はする。

でも。

「…だからって、自分の傷を…他人に押し付けて良い訳じゃない」

それは違うだろ。

俺の不幸は、俺のもの。

君の不幸は、君のもの。

決して、他人になすりつけ合って良いものではない。

「君のことは可哀想だと思うけど…でも、だからって、同じ不幸を他人に押し付ける権利はないんだ」

「黙れっ…!お前に何が分かる!生まれたときから、恵まれた人生を送ってきたような奴が…」

俺は、思わずその言葉にカッとなった。

生まれたときから恵まれた人生…。

そうだったなら、どんなに良かったか。

誰一人殺さず、幸せに生きれたら、どんなに良かったか!

だけどそれは出来なかった。不可能だった。

どうしようもない、それが俺の運命だった。

だから、君もそうなんだ。

どうしようもない運命に、どれだけ打ちのめされようとも…。

それでも俺達は、他人を不幸にする権利なんてないんだ。

「抜け出すことなんて出来ない。お前は永遠に…」

「…それはどうかな」

「…何…?」

俺は、まだ自分の運命を諦めてはいない。

この魂の奥深くで、まだ…俺を呼ぶ声がする。

錯覚なのかもしれない。俺が、そう思い込んでいるだけかもしれない。

でも、何も試さずに諦めるより、ずっと良い。

俺は、懐に忍ばせたカッターナイフを取り出した。

これは一種の賭けだ。

成功する保証なんてない。

だけど、俺は…。

俺は、信じるよ。

だから、君も応えてくれ。

「…ベルフェゴール」

俺はカッターナイフで、思いっきり自分の手首を引き裂いた。

血飛沫が舞った。

痛みに顔を歪めながら、俺は叫んだ。

「血の盟約において…我が身に宿れ!」



…その、瞬間。

「ったく…俺様を呼ぶのが遅いぞ、吐月!!」

世界が、白い光に包まれた。
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