愚かな男を愛したセリーナ
彼女には酷いことをした。優しさの上に胡坐をかき、アイラの名を呼びながら抱いてしまった。セリーナと気がつきながらも、違う女の、それも腹違いとはいえ妹の名前を呼んで抱いた。

 ……シーツには、破瓜の血のあとがうっすらとついていた。反応も全てが初心だった。本当に初めてだったのだろう。それなのに、優しくできなかっただけでなく、妹の身代わりに抱いてしまった。

 謝りたい。けれど、――どこにもいない。

「くそっ、どこにいるんだよっ」

 ドンっと壁を叩くが、返事はない。苛立つ心を抑えることもできず、セドリックは歯をギリッと噛みしめた。





「はぁ」

 セリーナは何度目かのため息をついた。

 澄み渡る青空を見上げる。雲一つない空は、遠くなるほどにその色を濃くする。セリーナはかねてから師匠のミーナに仕事を手伝って欲しいと頼まれていた。今回のことはいい機会と思い、遠く離れた街に来ていた。

 ここに来るだけで移動に一日もかかる。セドリックがどれだけ必死になっても、探し出すことなどできない距離だ。

(最も、セドリックが私のことを、探すとも思えないけど……)

 誰にも何も言わず、彼のいる街を飛び出してきた。夫婦となってから、セドリックとは一緒に仕事をしてきたけれど、腕のいい彼のことだから、自分がいなくても何とかなるだろう。

「もう、このままこの街に移ろうかな」

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