再愛婚～別れを告げた御曹司に見つかって、ママも息子も溺愛されています～

　だが、ノアに声をかけてきた男性の声に聞き覚えがあり、その場から動くことができない。
　懐かしく、切ない感情が包み込んできてしまう。真綾には、その男性が誰なのか。顔を見ないでもわかってしまった。
　
　心臓が苦しいほどに痛い。イヤな音を立てていて、早くこの苦痛から逃げ出したいと強く願った。
　だが、身体と思考は全く動いてくれず、ただその場に突っ立ているしかできない。
　そんな真綾をよそに、ノアは慌てた様子で突如として現れた人物に声をかけた。

「永江先生、どうしてここに？」
「労務部に用事があって来ていたんです。あと、先日ノアさんに頼まれていました企業間コンプライアンスの書類を持ってきました」

　どうぞ、とＡ4サイズの茶封筒をノアに差し出した。
　ノアは慌てた様子で、その封筒を受け取る。

「あ、ああ……そうだったんですね」
　
　先ほどまでのノアの行為について批難したいところだが、今の真綾にはその余裕はない。
　とにかく今は、真綾の存在をその人物に指摘されないことだけを祈るばかりだ。