憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
その時、直哉の前にいきなり女性医師が現れた。すぐ隣の処置室にいたらしい。
マスクで顔はほとんど見えなかったが、ほっそりとしている。
肩先にやっと届くくらいのボブヘアがキリっとした印象だ。
すれ違う瞬間に、わずかだが懐かしい匂いが鼻腔をくすぐった気がした。
(これは……この香りは……)
以前に、親しんでいた香りだ。
消毒薬の匂いしかないERで、まさかあの香りに巡り合うとは思いもしなかった。
それより直哉が一番驚いたのは、まだ自分が覚えていたことだ。
(石鹸でもない……ああ、彼女のシャンプーの香りだ……)
かつて、自分の横で毎日眠っていた彼女が使っていたものと同じだ。
一瞬のうちに、柔らかな白い肌やサラリと指先から流れる長い黒髪の手触り。
自分の名を呼ぶ声までが、昨日のことのように蘇った。
(由美と同じもの……?)
慌てて振り向くと、その女医の姿は見えなくなっていた。
(まさか……由美がここにいるわけないか……)
ここから遠く離れた場所にいるはずの女性の名を心の中で呼ぶ。
苦い思い出は今でも胸を締めつけるのに、なぜか甘い記憶が直哉の脳裏を過る。
だが瞬時に打ち消して、彼はすぐに仕事に没頭していった。