9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
間もなくして侍従が訪ねてきて、セシリアは皇帝に謁見した。

どうやら病にかかっているらしく、顔色が優れなかったが、ところどころに粗野で豪快な雰囲気が見え隠れしていた。

彼の御代で、オルバンス帝国は領土拡大の一途をたどったのだから、もとは豪傑な男だったのだろう。

病を理由に来年退位し、デズモンドに皇帝の座を引き渡すことが決まっているとのこと。

その前にセシリアのような妃を見つけて本当によかったと、皇帝は笑った。

その帰り、ビロードの絨毯が敷き詰められた城の廊下で、セシリアはひとりの男に呼び止められる。

「君がセシリア嬢か。なるほど、これは美しい」

男は、濃緑のジュストコールに白の下衣という出で立ちで、身体の線が細く、後ろで束ねた金色の髪と、青い瞳をしていた。手には、重そうな本を抱えている。

うっすらと清廉な微笑を浮かべる様が、どことなくエヴァンと重なった。

男の正体が分からず、セシリアがまごついていると、男が胸に手を当て軽く礼をした。

「申し遅れました。私は、この国の第一皇子、グラハム・メイデン・オルバンスと申します」

(第一皇子ということは、デズモンド様のお兄様?)

「初めまして、セシリア・サシャ・ランスロ―と申します」

セシリアは慌ててスカートをつまみ、淑女の礼をとった。

顔を上げると、青い瞳が、食い入るようにセシリアを見つめている。

グラハムが無言のまま見つめ続けるものだから、セシリアはどうしたらいいか分からず、「あの……」と戸惑いの声を出す。

するとグラハムは我に返ったように顔に笑みを取り戻した。
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