9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
伯爵令嬢だったデズモンドの母が父皇帝に見初められたのは、十六歳の頃だったという。

オルバンス王城で開かれた、年に一度の大舞踏会の折だった。

すでに正妃がいたが、父は黒髪の若々しく美しい乙女にぞっこんになった。

早急に後宮入りが決まり、父皇帝は母を特別かわいがるようになる。

正妃はすっかり蔑ろにされてしまったにも関わらず、懐の広い女性で、若い側妃をやっかみはしなかった。

オルバンス帝国きっての高位貴族の出で、あらゆる魔法を使いこなせる才女だったが、自分の能力を笠に着ることもなく、母を妹のようにかわいがった。

その状況は、側妃の子――すなわちデズモンドが生まれてからも変わらなかった。

正妃はデズモンドをまるで我が子のようにかわいがり、自身の息子のグラハムと分け隔てなく接した。

デズモンドも、優しくおおらかな正妃にすっかり懐いていた。

まるで聖女のような人だと思っていたことすらある。

だが、状況が一変した。

ある日、母が突然死んだのだ。

大魔導士エンリケの見立てによると、毎日少しずつ死に至る暗黒魔法をかけられたことが原因だった。

はたからは決して分からないように、ごくごく微量の魔力を、毎日少しずつ。

はらわたが煮えくり返るような、卑劣な手段だった。

暗黒魔法をかけた者の正体はいくら捜査しても分からなかった。

あの大魔導士エンリケですら欠片ほども痕跡を追えなかったほど、巧妙な手口だったらしい。

そして母の死から数ヶ月後、今度は正妃が、一撃の暗黒魔法によって他界する。
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