しづき







その夜





「汐月、今夜ぼく出かけるから」


「え?」




ここにきてからずっと私と一緒にいた白。



お風呂、トイレのとき以外は片時も離れず私にベッタリだったのに。



出かけるなんてはじめてのことだった。



「いったいどこへ…」


「秘密。朝方には帰るから。
いいこで待っててね」


「しろ…」


「間違っても出ていこうなんて考えないように。きみはぼくから逃げられないんだからね」



頬に口づけられる。



「行ってきます。ぼくの天使」



真っ黒なスーツに身を包んだ白は、私の頭を愛おしげに撫でると、部屋から出ていった。



しんと静寂が広がる室内。



「白…」



明らかに雰囲気が違っていた。



服装だって、いつもはラフな服が常だったのに、スーツなんて。



きっと…なにかある。




胸の奥がひどくざわついた。



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