エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
一哉は頷いたものの詳細は語らなかった。

彼が妻に仕事について話さないのはいつものことで、それは機密事項だからだと分かっているけれど、真咲との電話を聞いた今は疎外感を覚えた。

「あとで電話するから」
「うん。玄関まで見送り出来なくてごめんなさい」
「大丈夫。昨日無理をさせたから。出来るだけゆっくりしていて」

一哉は澄夏の頬に素早くキスをしてから部屋を出て行く。

寝室のドアがパタンと閉じると、澄夏は自分の頬にそっと手を当てた。
胸が痛くてじわりと涙が滲んだ。

(どうして今、キスなんてするの?)

彼はこれから真咲のところに行き、力を合わせて仕事をするというのに。

まるで妻を愛しているような行動で、澄夏の戸惑いは大きくなる。

(南雲さんは彼にとって必要な人)

対して自分にはもう彼の助けになるだけの価値がない。それは義父も感じている不安だ。

だからこそ身を引く決意をしたと言うのに。

ここに来て彼の態度が澄夏を混乱させる。

(これ以上好きにさせないで)

同情からなら愛情を見せないで欲しい。未練を捨てられなくなってしまうから。
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