もう一度会えたなら
 夕食を済ませた美紀は、ソファーに深く体を沈め、何度も溜め息を吐いていた。美紀にはまだやるべき事が残っている。
 
 徐に立ち上がり、鞄に入れたままのスマホを取り出した。着信履歴を確認すると、今日も画面は大希でいっぱいになっていた。留守電には、いつも同じ時間に同じメッセージが入っている。

『今仕事終わりました。会いたいから連絡ください』

 あれほど残業続きだった大希は、あの日から毎日定時で退社している。それは同時に、瑠璃子との関係を認めたことを証明していた。

 着信音をオンに切り替える――と、待っていましたとばかりに着信音が鳴った。もちろん大希からだ。あの日から、二人きりになるのを避けてきた。会社では仕事上の会話以外は一切していない。二週間ぶりに電話に出るのだ。

「はい」

「美紀! やっと出てくれた……良かった」

 大希の声は震えていた。
 最近の彼は、それこそ美紀が今まで見たことのない顔ばかりするようになっていた。
 デスクでは、常に視線を感じていた。今だかつて、これ程までに熱い視線を受けた事があっただろうか、と思うほどに。
 今日美紀が退社する時には、大希は目を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな表情をしていた。そんな彼を、美紀は見て見ぬふりしていた。

「会って話がしたい」と言う大希に、「じゃあ明日、家の近くのファミレスで」と美紀は応え、電話を切った。

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