もう一度会えたなら
 会計を済ませて店から出ると、突然声を掛けられた。

「荷物、持ちましょうか?」

 顔を上げると、そこには浮かない顔をした男性が立っていた。

「――か、海斗君!?」

 余りに突然の出来事で、美紀の声は上擦り、一歩後ずさりした。

「美紀ちゃん、今仕事帰り?」

 いつも目にしていた眼鏡にスーツの格好ではなく、ラフな普段着姿の海斗が尋ねる。
 美紀は返事に戸惑った。

「えっと……」

 考えあぐねていると、海斗が美紀の顔を覗きこんだ。その瞬間、ふわりと海斗の香りを感じた。正確には、海斗が使用している柔軟剤の爽やかな香りだ。

「美紀ちゃん、すげぇ痩せたんじゃない? もしかして体調悪かった?」

 美紀は海斗の顔を一瞬見てから地面に視線を落とした。

「実は彼氏と別れちゃって。職も失って……何にもなくなっちゃっ……た」

 美紀の頬を涙が伝った。
 海斗が驚いているのか困っているのかは分からなかったが、俯く美紀の手からそっとレジ袋が引き抜かれた。

「家まで送るよ。徒歩だけど」

 海斗はそれ以上何も言わず、ただ美紀と並んで歩いた。
 起きてから何も食べていないせいか、少しふらつく感じがした。時々手の甲が海斗の持つレジ袋に当たり、パシャパシャと音をたてる。
 美紀の頬は濡れたままだったが、辺りはもう真っ暗で人に気付かれることはないだろう。

 孤独感と虚しさとやるせなさと、色々な感情が入り交じり、無性に温もりに触れたくなった美紀は、黙ったまま右手を差し出した。
 海斗はレジ袋を右手に持ちかえると、美紀の手を握り、何も言わず歩き続けた。
 さすが、大人の対応だ。
 海斗の優しさに触れ、収まりかけた涙が再び溢れ出た。

「ありがとう。このマンションです」

 美紀がレジ袋を受け取ろうと繋いだ手を緩めると、海斗は手を離し、次の瞬間には美紀の後頭部に手を回した。

「ぁ……」

 鼻を掠めていた柔軟剤の香りを間近に感じ、力強い腕に包まれ身動きがとれなかった。

 しばらくすると腕の力が緩められ、美紀が海斗の胸に埋めた顔をゆっくりと離すと、海斗の顔が近付いた。
 今度は優しく抱き締められ、海斗の頬が耳にあたるのを感じた。

「次会う時は、美紀ちゃんの笑顔が見たいな」

 そう言ってから美紀の頭を撫で、海斗はもと来た道を戻っていった。

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