もう一度会えたなら
 それから三十分程で美紀の順番が来た。

「お次のお客様、店内でお連れ様がお待ちです」

「あ、いえ……待ち合わせではないです」

 美紀が店員に応えるも、「いえ、あちらでお待ちです」と――案内された先には、笑顔で手を振る海斗の姿があった。

「美紀ちゃん並んでるの実はここから見えてたんだけど、しばらく眺めるのもいいか、なんて思ってさ」

 そう言って、また海斗は笑った。

 海斗に近付くにつれ、視界がぼやけていく。
 慌てる海斗もぼやけた。
 美紀の頬を、また涙が伝っていた。

「会いたかったの。謝りたくて」

「え? ちょっ……何?」

「この前のこと、ずっと謝りたくて……」

「ちょっと待って。とりあえず座って」

 海斗に促され、美紀が椅子に腰をおろすと、海斗は落ち着いた口調で話し始めた。

「俺は、ただ美紀ちゃんに会いたくて、今日ここに来たんだけど」
 
 海斗の指が美紀の頬に触れ、優しく涙を拭った。

「海斗君に奥さんがいること分かってたのに、何であんなことしちゃったんだろうって……」

「妻とは別れてるよ、四ヶ月前に。……実はもう何年も別居してた」

「四ヶ月前って――」

 海斗は気まずそうに苦笑いしている。

「うん、美紀ちゃんと出会ってちょっと経った頃かな」

 美紀は愕然とした。
 毎日顔を合わせて会話を交わしていた海斗が、それほどの大きな問題を抱えていたことに、まるで気付かなかったからだ。四ヶ月前の海斗の様子を思い返してみたが、何一つ思い当たる節がなかった。

「――何で話してくれなかったの!?」

 つい声を荒げてしまった。

「普通言わないだろ。てか言えないだろ? 婚約して幸せ真っ只中の美紀ちゃんに」

 美紀は言葉を詰まらせた。確かにその通りだと思った。

「……ごめん……なさい」

「何で美紀ちゃんが謝るんだよ。これは俺たち夫婦の問題だし、離婚するのはもう前から決まってたことなんだ。たまたまそれが、四ヶ月前だったってだけだよ」

「……そう」

 美紀はそれ以上言葉が続かなかった。

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