BeAST
あ、滑る。
走って、抱きつくように支える。
キュキュッ、と俺の足も床が濡れていて若干滑って背中が壁にぶつかるのを覚悟した。
けど、ぶつかることはなく。
女を支える俺を、支えるその手を俺は知っていた。
「丞さん、ナイス」
ふわっと香る煙草の香り。
そんなのに、心臓が跳ねるほど俺の頭はやられている。
「ごっ、ごめんなさい!あたし」
「怪我してねえか」
「えっ、あっ、あたしは支えて貰ったから全然」
スッと抱きしめていた腕を離す。
「余裕なくてかなり力入った。痛くなかったか」
「全然…!あっ!服、濡れちゃって…」
腹の部分が若干濡れてる。
「そんなん、乾くだろ。」
「灯織くん、悪いね。店のレイアウト見直さなきゃな」
和さんが駆け寄ってくる。
さっきから、俺から手を離さず無言でいる不気味な男を振り返り、顔を覗き込もうとする。
「さっきから黙ってっけど、大丈夫か?丞さんが怪我したんじゃ」
「…してないよ。大丈夫」
コテン、と俺の肩に頭を乗せるから顔が見えない。
「……それより、なんで…灯織が居るの……」
声が近くて、ゾワゾワっと鳥肌が立つ。
くすぐったいんだよな、丞さんの声。