天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 と言っても、優弦さんはとっても子煩悩で、帰宅するとずっと文乃を見ていてくれるのでとても助かる。
「文乃が起きるまでに世莉を堪能しておかないと」
「な、何を言ってるんですか……っ」
 呆れた声で返すも、優弦さんはぐっと私の顎を掴んで上向かせた。
「本気で言ってるのに、君はずっとつれないね」
「え、あ……」
「好きだよ世莉」
 綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、そのまま深い口づけをされた。
 そのまま立っていることができなくて、思わずうしろのテーブルに手を着く。
「んんっ、優弦さん……」
「世莉の可愛い反応は、ずっと見ていられるな」
「もう、本当に文乃が起きちゃ――あ」
 ドタドタと廊下から足音が聞こえてきたので、私は目の前にいた優弦さんを慌てて押しのけた。
 それから数秒後、予想通りリビングのドアが開いて、苺柄のパジャマを着た小さな怪獣がやってきた。
「ママパパ、なんでとなりいないのーっ」
「あー泣かない泣かない」
「ひとりでいりゅのこわいのにーっ」
 寂しがり屋の文乃をすぐに抱っこして、よしよしと赤ちゃんのようにあやす。
 優弦さんも多少責任を感じたようで、文乃の頬を優しく撫でた。
「ごめんね文乃。びっくりさせたね」
「うー、パパあー、抱っこーっ」
「はいはい、おいで」
 優弦さんにバトンタッチして、そっと文乃を渡す。
 背の高い優弦さんに抱っこされる方が楽しいみたいで、文乃はわりとこれですぐに機嫌がよくなる。
「たかいたかいちてっ」
「いいよ」
 文乃のわがままを全部聞いてしまう優弦さんは、言われた通りたかいたかいをする。文乃の楽しそうな声がリビングに広がり、私は少しほっとする。
 でも、これを始めるとすぐには終わらないことを分かっているはずなのに……。
 毎回腕が疲れないか心配だけど、優弦さんはちっとも疲れた様子を見せない。
「こんなに朝早く皆で起きちゃって、どうしますか」
「んー、川沿いの桜でも見に行く? 今日が満開で昼は混みそうだからね」
「あ、いいですね」
 ちょっと散歩に行ったら、文乃ももう一回寝付くだろう。
 それを期待して、私達は外に出かける準備を始めた。
 その間、文乃はソファーに座って、お気に入りの仕掛け絵本をずっと閉じたり開いたりしている。
 その愛らしい様子を見て、今のこの景色はまるで奇跡だと思った。
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