天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 ……バース性で言うと、文乃はオメガ型として生まれた。
 運命の番同士でオメガ型が生まれるのは、本当に極稀なことらしい。
 でも、バース性については、もう相良家の誰も聞いたりしてこない。お義母さんが相良家のことを取りまとめてくれているお陰で、だいぶ考えが見直されたようだ。
 優弦さんの発信があって、医療界でもバース性に関する勉強は数年前よりずっと進んでいる。
 もちろん私達は、文乃がどんなバース性だとしても、愛する気持ちは変わらない。
 だからどうかこのまま、差別のない世界になっていってほしいと願う。
「文乃ー、行くよ。パパとお手手つないで」
「はーい」
 本を閉じた文乃が、ゆっくりソファから降りて、優弦さんと手を繋ぐ。
 私は小さなバッグひとつ持って、玄関のドアを開けた。
 自然が多い場所に住みたいという優弦さんの希望があって、私達は清流音が聞こえる新築マンションを購入した。
 この辺りはかなり厳しく景観が守られている街なので、車の通りは少なく、緑は多い。
 歩いてすぐに見える川に辿り着くと、私達は感動の声をあげた。
「わあ、綺麗……」
「早起きしてよかったな」
「おはなーっ」
 川の上でアーチ上になっている桜を見て、文乃も目を輝かせている。
 花びらに触れたいみたいだったので、優弦さんがひょいと片手で文乃を抱っこして桜に近づかせた。
「きゃーっ」
「文乃、優しく触るんだよ」
「いいこ、いいこ」
 ちょんと小さな指で桜に触れる文乃と、そんな文乃を愛しげに見つめている優弦さん。
 そんな二人を見ていたら……何だか胸がいっぱいになってしまった。
 ここまで来るのに、本当に長い長い時が流れた。
 おばあちゃまの悲しい過去は消えないけれど、旦那様には今までの罪を背負って、これからの生き方を見直していってほしい。
 もし、文乃の存在がその一助になるのであれば、ゆっくり歩み寄っていきたいと思った。
 何度か文乃に会うことをお願いしたけれど、旦那様は『私にはまだ自覚できていないことがたくさんある』と返してくるだけだった。
 私も本当は、旦那様にまた会うことは少し怖いけれど……、人は変われるということを、信じてみたいと思っている。
「本当に、綺麗ですね」
 ふと話しながら自然に、隣にいる優弦さんの手を握ってみた。
 優弦さんはすぐに私の手を握り返しながらも、目を丸くしている。
< 120 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop