全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「食べていい? どれからいこうかな。全部うまそうだ」

「まずは乾杯しようよ」


 今にもガツガツと食べ出しそうな魁に、グラスを渡してビールを注ぐ。
「お疲れ様」と言葉を交わして乾杯をしたあと、魁は真っ先にハンバーグに箸を付けた。


「なにこれ、めちゃくちゃうまい!」

「ありがとう。きっと国産の挽き肉を使ったからだよ。素材がいいだけ」

「いや、料理上手なんだろ。郁海はいつも謙虚だよな」


 それは由華さんにもよく指摘される。「郁海は自己顕示欲がゼロだよね」って。

 褒められると全身がくすぐったくなるから、なんとなく誤魔化したくなる性分なだけだ。
 それに、料理なんてたいした特技でもない。こんなメニューで自慢するほうがどうかしている。


「今度俺に作り方を教えてよ。料理できる男ってカッコよくない?」

「そうだね。ますます女の子にモテちゃうね」

「どんなにモテても、郁海が振り向いてくれないと意味ないんだけどな……」


 キッシュを口に放り込んだ魁は、咀嚼しながら意味深な笑みを浮かべていた。

 魁に面と向かって言えはしないけれど、私に対する彼の思いはしっかりと伝わってきている。
 真剣に向けられた愛で、こんなにも自分の心が満たされるなんて、この年齢になって初めて知った。

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